同業が集まると、なぜ売上が増えるのか
直感に反するようですが、競合が近くにいることで自分の店の売上が増える状況は珍しくありません。これは経済地理の分野で集積の経済として整理されてきた現象で、少なくとも三つの経路があります。
1. 比較コストが下がり、来街者が増える
買い手にとって、複数の候補を比べられることには価値があります。一軒だけの街に行くのは賭けですが、十軒ある街に行けば必ずどれかは条件に合います。この安心感が来街を促します。比較して選びたい商品ほど、集積の効果は大きくなります。家具、衣料、中古品、専門的な機材などが典型です。
2. 街そのものがブランドになる
「あの街に行けばそれが揃う」という認知が形成されると、街の名前が検索や口伝えの単位になります。個店の広告費では届かない範囲の需要を、街の看板が引き寄せてくれます。個店から見れば、販促の一部を街に外注している状態に近いといえます。
3. 供給側の効率が上がる
同業が集まると、仕入先や職人、修理業者、専門人材が集まってきます。搬入の頻度が上がり、部材が手に入りやすくなり、経験のある人材の採用がしやすくなります。売上ではなくコストと調達の側で効いてくる効果であり、外からは見えにくいものの実務上は大きな意味を持ちます。
集積が効く業種、効かない業種
集積の効果は業種によって差があります。効きやすいのは次の条件を満たす場合です。
| 観点 | 効きやすい | 効きにくい |
|---|---|---|
| 購買前の比較 | 実物を見比べて決める | 規格品でどこで買っても同じ |
| 来店頻度 | 低頻度・目的来店 | 高頻度・日常利用 |
| 品揃えの差 | 店ごとに品揃えが異なる | 店ごとの差が小さい |
| 滞在の性格 | 回遊して複数店を見る | 一店で用が済む |
| 商圏の広さ | 広域から集める | 近隣に限られる |
日常的な買い回り品や、規格化されていて店による差が小さい商品では、集積は主に価格競争を招きます。近所のコンビニが二軒隣り合っても来街者総数は増えないため、単純に客を分け合うことになります。逆に、専門性が高く比較して選ぶ商品では、店が増えるほど街の吸引力が増します。
共食いが始まる境界線
店舗数が増え続ければ、どこかで一店あたりの売上は頭打ちになり、やがて下がり始めます。この転換点をどう見極めればよいのでしょうか。判断の軸はひとつに絞れます。
来街者の総数が伸びているか、伸びていないか伸びていれば集積、止まっていれば奪い合い
店が一軒増えたときに、街を訪れる人の総数も増えているなら、まだ集積が働いています。店は増えたが来街者は変わらないなら、パイの分割が始まっています。したがって観察すべきは競合の店舗数ではなく、街全体の来街者数の推移です。
現地で確認できる兆候としては、次のようなものが挙げられます。
- 主要な通りの通行量が、店舗数の増加ほどには増えていない
- 価格訴求の看板や割引表示が目立ち始めている
- 営業時間の延長や早朝営業といった、コストを増やす競争が起きている
- 入れ替わりが速く、空き区画と新規開店が同時に並んでいる
- 専門店が減り、汎用的な業態が増えている(街の特色が薄れている)
とくに最後の兆候は重要です。街の吸引力は品揃えの多様性から生まれます。同じような店ばかりになると、比較する価値が下がり、来街の理由そのものが失われていきます。集積の終わりは、店舗数の飽和ではなく多様性の喪失から始まることが多いものです。
集積地に出店するときの判断
- 街の来街者総数の推移を調べる自治体や商店会が公表する通行量調査、駅の乗降者数の推移などを数年分見てみましょう。単年の数字ではなくトレンドを見ることが大切です。
- 自分の店が街に何を追加するかを言語化する既存店と同じ品揃えなら分割にしかなりません。街の品揃えの穴を埋めるなら、集積の側に立てます。
- 回遊動線上の位置を確認する同じ集積地でも、回遊の主動線から一本外れるだけで恩恵は激減します。実際に歩いて、人がどこで折り返しているかを見てみましょう。
- 撤退の速さを織り込む集積地は変化も速いものです。街の性格が変わったときに移れるよう、契約期間と解約条件を短めに設計する余地があるか確認しておきましょう。定期借家契約の活用で契約期間そのものを短く区切る選択肢は第18回で扱います。
複数の店を出すときの距離設計
ここまでは他社との集積の話でした。自分で複数店を出す場合、話は変わります。他店が競合であれば売上を奪われても自分の損にはなりませんが、自分の店同士では純粋な損失になりうるからです。ただし、これも単純ではありません。
近接出店にはメリットもあります。配送や在庫の融通、人員の応援、共同での販促、認知の面的な広がり。いわゆるドミナント戦略は、この効率とブランド認知を狙って意図的に近接出店するものです。既存店の売上が多少下がっても、エリア全体の合計が増え、運営効率が上がるなら合理的な選択になります。
判断の基準は、エリア合計の営業利益です。新店の売上から、既存店の売上減少分を差し引き、そこから新店の固定費を引きます。この差引後の利益が正であれば、カニバリ(自分の店同士で客を奪い合うこと)が起きていても出店する価値があります。
距離の基準を一律に決めない
「自分の店は何メートル以上離す」といった一律の基準は運用しやすいものの、実態とはずれやすいものです。商圏の広がりは、交通手段、地形、鉄道や幹線道路による分断、業態の目的性によって方向ごとに異なります。距離ではなく、第2回で扱った到達時間と障壁を踏まえた商圏の重なりで判断するほうが精度が高くなります。
まとめ
- 集積は、比較コストの低下、街のブランド化、供給側の効率という三つの経路で売上を押し上げます。
- 効果が大きいのは、実物を比較して選ぶ、低頻度・目的来店型で、店ごとの品揃えに差がある業種です。
- 集積か共食いかを分けるのは店舗数ではなく、来街者総数が伸びているかどうかです。
- 街の多様性が失われ、価格競争と業態の均質化が進んだ段階が、集積の終わりの兆候になります。
- 複数の店を出すときは、カニバリの有無ではなく、エリア合計の営業利益が増えるかどうかで判断しましょう。
次回は、集積の中でもとくに影響の大きい存在、すなわち核となる大型店(アンカーテナント)が周辺の商売に及ぼす力と、その退店が持つリスクを扱います。