物流不動産は「立地」より先に「仕様」で選ばれる
この連載のA編では、視認性や通行量、商圏人口といった立地の要素が売上をどう左右するかを扱ってきました。物流施設では、この前提が大きく変わります。荷物を保管し、仕分け、出荷するという庫内作業の効率は、建物そのものの仕様、つまり天井の高さ、床が支えられる荷重、柱と柱の間隔、トラックが同時に着けられるバースの数によって決まります。立地が無関係になるわけではありませんが、まず建物の仕様が庫内オペレーションの求める水準を満たすかどうかを確かめなければ、立地の良し悪しを議論する土台に立てません。
賃料を決める4つのスペック
| スペック | 何を制約するか |
|---|---|
| 有効天井高 | ラック段数、保管効率、自動倉庫設備の導入可否 |
| 床荷重 | 積載可能な棚・機材の重量、フォークリフトの走行可否 |
| 柱間隔 | ラック配置の自由度、通路幅の確保しやすさ |
| トラックバース数 | 同時入出荷できる台数、待機時間の長さ |
数値の扱いについて
有効天井高や床荷重の目安として業界で一般的に語られる水準はありますが、扱う荷物の種類、棚の仕様、自動化設備の有無によって必要な水準は大きく異なります。特定の数値を適正値と決めつけることはできません。実際の判断では、取り扱う荷物の仕様から必要スペックを個別に算出し、建築士や設備業者に確認する必要があります。
建物条件と庫内オペレーションが合わないときのコスト
次の例は、考え方を示すための架空の設定であり、実在施設の数値ではありません。ラック4段構成を前提に庫内設計を計画していたところ、契約後に有効天井高が想定より低く、実際にはラックを3段までしか組めなかったとします。この場合、保管できる荷量は単純計算で4分の3に減ってしまい、同じ荷量を保管するには床面積を追加で確保するか、坪あたりの保管効率が下がったまま運用するかを選ぶことになります。
床荷重が不足している場合も同じような問題が起きます。想定していた重量の棚やフォークリフトが使えず、積載制限のある軽量棚に変更せざるを得なくなれば、やはり保管効率は落ちてしまいます。トラックバースが不足している場合は、入出荷のトラックが施設周辺で待機する時間が延び、ドライバーの拘束時間や庫内作業員の手待ち時間という形で人件費に跳ね返ります。柱間隔が狭い建物では、ラックの列を柱に合わせて曲げざるを得ず、通路幅が不均一になって庫内搬送車両の動線計画がそのまま使えないこともあり得ます。いずれのケースも、建物契約の段階でスペックを確認しておけば避けられた追加コストです。
契約前に確認すること
竣工図面上の有効天井高・床荷重・柱間隔の表記だけでなく、実測値との差がないかを現地で確認しましょう。既存の設備配管や照明が有効天井高を圧迫していないか、トラックバースの高さがドックレベラー(トラックの荷台と庫内の床面の段差を埋める設備)と合っているかも、あわせて確認しておきたいところです。
立地が完全に無関係になるわけではない理由
物流施設でも立地が効かなくなるわけではなく、効き方が変わるだけです。周辺人口や視認性の代わりに、高速道路のインターチェンジや幹線道路への近さが輸送効率を左右します。これは第05回「駅前/郊外/ロードサイド:立地タイプ別の勝ちパターンと固定費構造」で扱ったロードサイド立地の考え方と地続きで、物流施設は極端にロードサイド寄りの立地を好む業態だと捉えると分かりやすいでしょう。到達しやすさが「人」ではなく「トラック」にとっての到達しやすさに置き換わっている、という違いです。
この考え方を他業種に応用すると
「立地よりも先に建物スペックで選ぶ」という発想は、物流施設に限らず、人よりも設備やオペレーションが売上を制約する業態全般に当てはまります。無人型の店舗や工場、データセンターのような業態では、通行量や視認性よりも、電気容量や搬入経路、床の耐荷重といった建物側の条件が事業計画の可否を先に決めます。業種ごとの採算構造の違いが、立地の好みだけでなく、建物スペックの好みの違いも生み出しているという見方は、D編全体を通じた共通の結論でもあります。
まとめ
- 物流施設の賃料と事業性は、立地よりも先に有効天井高・床荷重・柱間隔・トラックバース数で決まります。
- スペックの目安は業界で語られる水準に過ぎず、扱う荷物とオペレーションから個別に確かめる必要があります。
- 建物条件と庫内オペレーションが合わないと、保管効率の低下や待機時間の増加という形でコストが生じます。
- 物流施設でも立地は効きますが、周辺人口ではなく幹線道路・高速ICへの近接性という形で効きます。
- 「採算構造の違いが立地・スペックの好みを変える」という見方は、業種D編を貫く結論です。
D編前半はここまでとなります。次回以降はホテル・宿泊、無人店舗、郊外型サービス業、IT企業のオフィス戦略と、業種別の視点をさらに広げていきます。