動線が客単価に効く二つの経路
店内の動線設計が売上に効いてくるのは、主に次の二つの経路を通じてです。
客単価 = 買上点数 × 一点あたり単価動線は主に買上点数の側に効いてきます
経路1:接触商品数が増える
お客さんが店内を歩く距離が伸びれば、視界に入る商品の数も増えます。目に入らない商品は買われません。この単純な事実が、動線設計の出発点になります。売場面積が広くても、お客さんが歩かない区画は実質的に存在しないのと同じです。
経路2:滞在時間が伸びる
滞在時間が伸びると、はじめの目的以外の商品も検討してもらえる余地が生まれます。ただし、これには限度があります。探しているものが見つからないために滞在時間が延びるのは、離脱を招くだけです。快適に店内を回った結果としての滞在時間の延びと、迷った結果の滞在時間の延びは、まったく別物だと考えてください。
入口の位置が決めてしまうもの
入口は、動線設計の中で最も影響が大きく、そして最も変更しにくい要素です。建物の開口部、道路との高低差、消防上の避難経路、外部の階段やスロープの位置。これらは内装工事の範囲を超えることが多く、契約後に動かそうとすると費用が跳ね上がってしまいます。
入口の位置によって決まってしまうのは、次の三つです。
- 客がどちら向きに入店するか:入った瞬間に見える方向が、最初の視線を決めます。ここに何を置くかで、店の印象も変わってきます。
- 主動線がどこを通るか:入口からレジへ、あるいは入口から目的の商品への最短経路が主動線になります。この線から外れた区画は、使われにくくなります。
- レジまでの距離:入口とレジが近すぎると、お客さんは奥へ入らずに折り返してしまいます。遠すぎると、レジ待ちの列が売場をふさいでしまいます。
とくに入口とレジの位置関係は、図面を見た段階で必ず検討しておきたいところです。入口を入ってすぐ横にレジがある配置は、会計の動線としては効率が良いのですが、回遊は作りにくくなります。一方で、少人数で運営する店では、レジから店内全体が見渡せることが、防犯と接客の両面で重要になります。効率と回遊のどちらを取るかは、業態と運営体制によって変わってきます。
レイアウトの代表的な型
| 型 | 構造 | 向く業態 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 回遊型 | 壁面沿いに主動線を回し、中央に島什器を置く | 食品、日用品、雑貨 | 中央部が死角になりやすい |
| ワンウェイ型 | 入口から出口まで一本の経路を強制する | 大型量販、体験型 | 目的買いの客に負担が大きい |
| グリッド型 | 什器を格子状に並べる | 品目数の多い小売 | 効率は高いが回遊の楽しさは出にくい |
| 自由回遊型 | 什器を不規則に配置する | アパレル、専門店 | 面積効率が落ちる。導線が読みにくい |
| カウンター型 | 接客カウンターを軸に構成する | 飲食、サービス、相談型 | 待ち時間の設計が必要 |
型そのものに優劣はありません。判断の基準になるのは、お客さんが来店時に持っている目的の強さです。目的がはっきりしているお客さんが多いなら、探しやすさを優先します。目的があいまいで、見てから決めるお客さんが多いなら、回遊を優先します。両方が混在する場合は、目的買いのお客さんが最短で到達できる経路を確保しつつ、その経路の周囲に発見のある陳列を置く、という二層構造にすることが多くなります。
図面段階で確認すべきこと
- 什器を実寸で配置してみる面積だけで判断せず、実際に使う什器の寸法を図面に落としてみましょう。柱の位置、梁下の高さ、給排水やガスの配管位置によって、置けない場所が必ず出てきます。
- 通路幅を用途ごとに確認する人がすれ違えるか、カートや荷物を持って通れるか、車椅子やベビーカーが回転できるか。狭すぎる通路は回遊を止めてしまい、広すぎる通路は面積を無駄にしてしまいます。
- 主動線を線で描いてみる入口から目的の商品、そしてレジまでの経路を実際に線で描いてみてください。その線が通らない区画の面積を数えて、有効面積を再計算します。
- ピーク時の滞留を想定するレジ待ちの列、試着や相談の待ち、入口付近の一時的な滞留。こうした列が主動線をふさがないかを確認しておきましょう。ふさいでしまう場合、ピーク時に売場が使えなくなります。
- バックヤードと搬入経路を確保する在庫置き場、事務スペース、休憩場所、ゴミ置き場。ここを削りすぎると、売場に段ボールがはみ出して回遊の邪魔になります。搬入が営業時間中に売場を横切る設計も避けておきたいところです。
- 法令上の制約を確認する避難経路の幅と扉の開き方向、消防設備の位置、業種によっては保健所が求める区画。レイアウトの自由度は、これらの制約に縛られます。詳しくは第24回で説明します。
通路幅の数値について
通路幅には業態ごとの慣行的な目安があり、また建築基準法や消防法、バリアフリー関連の条例によって最低寸法が定められている場合があります。ただし適用される基準は建物の用途、規模、所在地の自治体によって異なるため、一般的な目安をそのまま採用せず、設計者と所管部署に確認したうえで決めるようにしてください。
開店後に検証する指標
レイアウトは、あくまで仮説です。開店後に検証し、修正していく前提で設計しておきたいところです。見るべき指標は、次の三つに絞られます。
- 買上点数:レイアウト変更の効果が最も素直に表れます。客数の変動に影響されないため、比較しやすい指標です。
- 区画別の売上:売場を区画に分け、面積あたりの売上を比較してみます。極端に低い区画は、動線から外れているか、商品構成が合っていない可能性があります。
- 関連購買の発生率:主力商品と一緒に買われている商品を洗い出し、その二つが物理的に近いかを確認します。離れていれば、配置を変える余地があります。
検証で大切なのは、一度に複数の変更をしないことです。什器の位置と商品構成と価格を同時に変えてしまうと、何が効いたのか分からなくなります。変更は一つずつ、比較できる期間を取って行いましょう。売場は、立地と違って何度でもやり直せる数少ない変数です。この自由度は、ぜひ活かしていきたいところです。
まとめ
- 店内動線は、接触商品数と滞在時間という二つの経路を通じて、買上点数に効いてきます。
- 入口の位置は最も影響が大きく、かつ契約後には変更しにくいものです。図面の段階での検討が欠かせません。
- レイアウトの型に優劣はなく、お客さんが持つ目的の強さに合わせて選びます。目的買いと回遊は、二層構造で両立させましょう。
- 図面には什器を実寸で落とし、主動線を描いて、ピーク時の滞留とバックヤードまで含めて検証しておきましょう。
- 開店後は買上点数、区画別売上、関連購買の三点で検証し、変更は一つずつ行いましょう。
ここまでのA編では、立地と商圏という「土地側の変数」を分解してきました。次のB編では視点を財務に移し、そもそもその不動産を買うべきか借りるべきかを、キャッシュフローと貸借対照表の両面から判断する枠組みを見ていきます。