なぜ「やりたい商売ができない土地」が生まれるのか
気に入った物件が見つかり、賃料も立地条件も合っていても、そこで計画している商売が法律上営めないことがあります。理由はひとつではなく、都市計画に基づく用途地域の制度、建築基準法による建物の使い道の制限、消防法による設備の要件、保健所などが担当する営業許可、自治体独自の条例という複数の規制が、それぞれ異なる目的で重なり合っているために起こります。ひとつずつ許可が下りても、どこか一箇所で引っかかれば開業できません。だからこそ、確認する順序をあらかじめ決めておくことが実務上大切になります。
建築基準法の確認順序(用途変更・排煙・避難)
物件の建物は、必ずしも計画している業種で使うことを想定して建てられているとは限りません。もともと事務所として建てられた建物を飲食店に転用する場合など、建物の使い方を変えるときには、建物の用途を変更する手続き(用途変更)が必要になることがあります。用途変更に伴って、内装の仕上げ材の燃えにくさ、煙を外へ逃がす排煙設備、避難経路の確保といった要件が、新たに求められる場合があります。
これらの要件は建物の規模や既存の設備状況によって適用の有無が変わるため、条文の詳細をここで一般化することは避け、確認しておきたい順序として次のように整理します。第一に、建物が現在どのような用途で登録されているか(建築確認上の用途区分)を確認します。第二に、計画している業種への転用に用途変更の手続きが必要かどうかを、設計事務所または建築士に確認します。第三に、必要であれば所管の建築主事または指定確認検査機関に事前相談します。
用途地域による制約
都市計画法に基づく用途地域の制度は、地域ごとに建てられる建物の用途を制限しています。住宅が中心の用途地域では、床面積の大きい店舗や、深夜まで営業する業種、風俗営業に関連する業種の立地が制限されることがあります。同じ「賃貸物件」であっても、用途地域によって出店できる業種の範囲が異なるという前提を持っておく必要があります。
用途地域は自治体の都市計画課などで確認できる公開情報で、物件の住所が分かれば契約前に自分で調べることができます。仲介会社からの説明だけに頼らず、自分でも自治体の窓口やウェブサイトで用途地域を確認しておくことをおすすめします。
消防・保健所・条例の確認順序
建築基準法上の要件をクリアしても、消防法に基づいて、建物の区分に応じた設備(消火器、誘導灯、自動火災報知設備など)の設置が求められることがあります。飲食店や物販店など不特定多数の人が出入りする業態では、収容できる人数に応じて求められる設備の水準が変わります。所管の消防署への事前相談が実務上の出発点になります。
食品を扱う業種では、保健所が担当する営業許可が必要になります。厨房の設備基準や区画の分け方に細かい要件があり、内装工事の設計段階から保健所の担当窓口に相談しておかないと、工事が終わった後に手直しを求められることがあります。さらに、深夜の酒類提供や騒音規制など、自治体ごとの条例による上乗せの規制が存在する地域もあります。
契約前チェックリスト:誰に何を聞くか
- 用途地域を自治体の都市計画課で確認する物件の住所から用途地域を調べ、想定している業種が制限の対象に該当しないかを確認しましょう。
- 建物の用途区分と用途変更の要否を建築士・設計事務所に確認する現在の建築確認上の用途と、計画業種への転用に伴う手続きの要否、排煙・避難に関する要件の見込みを確認しましょう。
- 消防法上の設備要件を所轄消防署に事前相談する収容できる人数と業態区分から必要になる消防設備の見込みと、おおよその費用を確認しましょう。
- 食品を扱う場合は保健所に内装計画を事前相談する厨房の区画や設備基準について、工事に着手する前の図面段階で確認しておきましょう。
- 深夜営業・騒音等に関する条例を自治体の担当課に確認する営業時間や音量に関する上乗せの規制がないか、業態に応じて確認しましょう。
契約書の停止条件として扱う
これらの確認は、契約を結んだ後ではなく前に済ませておきたいところです。可能であれば、賃貸借契約に「必要な許可などが取得できない場合は契約を解除できる」という条件(停止条件)を盛り込めないか、貸主や仲介会社と交渉しておくと、確認が間に合わなかった場合のリスクを抑えられます。
こうした規制の確認は、通行量や商圏といった集客面の検討と並行して進めておきたいところです。通行量や入店率の測り方については第03回で扱いました。集客面の検討だけを先に進め、規制面の確認が後回しになると、契約直前になって計画の変更を迫られることになりかねません。
最終判断は専門家・所管窓口への確認を
用途地域、建築基準法、消防法、保健所の許可基準は、自治体や個別の建物の条件によって適用のされ方が異なり、この記事の説明は一般的な制度の枠組みにとどまります。具体的な物件で開業できるかどうかの最終判断は、必ず建築士、行政書士、所管の自治体窓口、消防署、保健所に個別に確認してから行ってください。
まとめ
- 「やりたい商売ができない土地」は、用途地域・建築基準法・消防法・保健所許可・条例が重なって生まれます。
- 建物の用途変更が必要かどうかは、建築確認上の用途区分から出発して建築士に確認しましょう。
- 用途地域は自治体の都市計画課で、契約前に自分で確認できる公開情報です。
- 消防・保健所への相談は工事着手前の図面段階で行うことで、後からの手直しを防げます。
- 確認が間に合わない場合に備え、許可取得を条件とする契約条項を交渉しておくとリスクを抑えられます。
C編はこの記事で終わりです。次はD編として、飲食店の坪数・席数・厨房が売上の天井を決める仕組みから、業種別の不動産戦略を見ていきます。