レバレッジの効かせ方と、イールドギャップが消える瞬間

E編理論編(第34〜37回)の最後として、借入を組み合わせたときに自己資金の利回りがどう変わるかを扱う。レバレッジは「効くときは強く効き、逆回転すると同じ強さで効く」という対称的な仕組みである。本稿では有利・不利という断定を避け、借入金利と期待利回りの差であるイールドギャップが、どのような条件で縮み、消えるのかを感応度で捉える。

この記事でわかること

  • レバレッジが自己資金利回りを高める仕組みとイールドギャップの意味
  • 金利上昇・空室率上昇でイールドギャップが縮小・消滅する条件
  • 架空の計算例で見るレバレッジの効果と逆回転
  • 契約前にできるストレステストの組み立て方

イールドギャップとは何か

不動産投資で借入を使う目的の一つは、自己資金に対するリターンを高めることにある。この効果の源泉が、物件の期待利回りと借入金利の差、いわゆるイールドギャップである。

イールドギャップ = 期待利回り − 借入金利差がプラスで大きいほど、借入を増やすことで自己資金利回りが高まりやすい

イールドギャップがプラスであれば、借入で調達した資金が生む利益(利回り分)が、その借入にかかる金利コストを上回る。この超過分が自己資金に上乗せされるため、自己資金だけで投資するよりも高い利回りに見える。これがレバレッジ効果である。

ギャップが縮む・消える二つの経路

期待利回りと借入金利の差であるイールドギャップを左右二つの棒グラフで比較する図。左は差が大きい局面、右は借入金利の上昇または期待利回りの低下によって差が縮小した局面を示す。
図1:イールドギャップが縮小する二つの局面。棒の高さと差は関係の構造を示す概念図であり、実測値や特定の金利水準を表すものではない。

イールドギャップが縮む経路は主に二つある。第一に借入金利の上昇。金融環境が変化して調達コストが上がれば、期待利回りが変わらなくてもギャップは縮む。第二に期待利回りの低下。前々回扱ったキャップレートが下がれば、物件価格は上がるが、新規に取得する際の利回りは下がる方向に働く。

金利水準そのものは断定しない

借入金利や期待利回りの絶対水準、今後の変動方向を本稿では示さない。金利や利回りは時期・金融機関・借り手の信用力によって大きく異なり、常に変動する。ここで示すのは「動いたときに何が起こるか」という構造であり、実際の判断では最新の金融機関の提示条件と、税理士・ファイナンシャルアドバイザー等の専門家の確認が必要である。

架空の計算例:ギャップがゼロに近づくと何が起こるか

次の数字は、レバレッジの仕組みを説明するための架空の計算例であり、実在の金利水準・利回り水準を示すものではない。物件価格1億円、自己資金3,000万円、借入7,000万円という設定で、借入金利の仮定を変えて自己資金利回りを比較する。

架空の計算例:借入金利の仮定を変えたときの自己資金利回り(数字はすべて仮の設定値、簡略化のため元金返済は考慮しない)
前提NOI利回り5.5%の場合
借入金利2.0%のとき自己資金利回り 約13.2%
借入金利4.0%のとき自己資金利回り 約8.5%
借入金利5.5%のとき(NOI利回りと同水準)自己資金利回り 約5.5%(レバレッジ効果なし)
借入金利7.0%のとき(NOI利回りを上回る)自己資金利回り 約2.0%(レバレッジが逆回転)

借入金利がNOI利回りに近づくほど、レバレッジ効果は縮む。借入金利がNOI利回りを上回ると、レバレッジは自己資金利回りを押し上げるのではなく押し下げる方向に働く。これが「イールドギャップが消える瞬間」であり、借入比率を高めるほど、この逆回転の影響は自己資金に強く跳ね返る。

空室というもう一つの変数

ここまでは金利の変化だけを見てきたが、NOI利回りの側も一定ではない。空室率が想定より上がればNOIが減り、実質的な利回りは下がる。金利上昇と空室率上昇が同時に起きると、イールドギャップは両側から縮む。業種によって空室・稼働の変動幅は異なる(D編「業種別の不動産戦略」で扱う論点)ため、対象物件のテナント特性を踏まえたシナリオが必要になる。とくに核テナントの退去は空室率を一気に押し上げる要因になりうる点は、第07回で扱ったアンカーテナントの引力の裏返しとして意識しておきたい。

契約前にできるストレステスト

  1. 現状のイールドギャップを計算する想定NOI利回りと、金融機関から提示された借入金利の差を確認する。
  2. 金利が一定幅動いたときの自己資金利回りを試算する金利が何ポイント上がるとイールドギャップがゼロになるかを逆算し、その水準までの余裕度を把握する。
  3. 空室率を保守的に置いた場合を重ねる金利上昇と空室率上昇を同時に仮定し、自己資金利回りがマイナスにならないかを確認する。
  4. 借入比率を段階的に変えて比較する借入比率が高いほど逆回転時の影響が大きくなる。複数の借入比率でシナリオを比較し、耐えられる範囲を確認する。

金融機関との相談前に確認すること

金利タイプ(固定・変動)、金利見直し時期、繰上返済条件、金利上昇時の返済額シミュレーション資料の有無。これらは第40回で扱う銀行の評価とも関係する。

レバレッジは万能な手段ではない

レバレッジは自己資金利回りを高める可能性がある一方で、下振れ時の損失も同じ比率で拡大させる。本稿は「借入を使うべきだ」という助言ではなく、仕組みと感応度を理解したうえで自社の耐性に照らして判断する材料を示すものである。

まとめ

  1. イールドギャップは期待利回りと借入金利の差であり、プラスが大きいほどレバレッジ効果が働く。
  2. 借入金利の上昇か期待利回りの低下のいずれかで、イールドギャップは縮小・消滅する。
  3. 借入金利がNOI利回りを上回ると、レバレッジは自己資金利回りを押し下げる方向に逆回転する。
  4. 金利上昇と空室率上昇が重なると、イールドギャップは両側から縮む。
  5. 契約前に金利変動と空室率変動を重ねたストレステストを行い、耐えられる借入比率を確認する。

次回からはE編の後半に入り、自社が保有する不動産を経営資源として棚卸しするCRE戦略の実務手順を扱う。

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