担保評価:万が一のときに回収できる金額
担保評価は、借り手が返済不能になった場合に、担保である不動産を処分してどれだけ回収できるかという観点で行われる。一般に、金融機関は独自の評価方法(路線価や固定資産税評価額を基準にした簡易的な積算、実勢価格を勘案した掛け目の設定など)を用いて担保価値を見積もる。
担保評価は保守的になりやすい。処分を急ぐ局面を想定するため、市場価格よりも低めの水準が使われることが一般的とされる。第35回で扱ったキャップレートの変化は、この担保評価にも影響しうる。金利環境が変わって不動産の市場評価が下がれば、担保余力も連動して縮む可能性がある。
事業性評価:返済原資を生み出す力を見る
一方で事業性評価は、担保の有無にかかわらず、事業が生み出すキャッシュフローで返済できるかどうかを見る評価である。損益計算書やキャッシュフロー計算書、事業計画の実現可能性、経営者の実績や業界動向などが対象になる。近年、担保や保証に過度に依存しない事業性評価を重視する動きが政策的にも進められているとされるが、その具体的な運用や制度の詳細は金融機関・時期によって異なる。
この二軸で見たとき、担保評価は高いが事業性評価が弱い象限では、審査が担保評価に依存しやすくなる一方、事業計画の説明力を補強することで交渉の余地が生まれることもある。逆に事業性は高いが担保が弱い象限では、数値による説明の比重が高まり、信用保証制度の活用など別の論点が絡んでくる。
金利水準・融資制度は断定しない
本稿で述べた評価の考え方は一般的な枠組みの説明であり、特定の金融機関の審査基準や、現在の金利水準・融資制度の詳細を示すものではない。金利、融資条件、保証制度は金融機関・時期によって異なり常に変動するため、実際の相談では最新の一次情報(各金融機関の公表資料、信用保証協会の案内等)を確認し、税理士や中小企業診断士など専門家の助言を得ることが望ましい。
二つの評価がかみ合わないときに起こること
担保評価と事業性評価は、必ずしも同じ結論を導かない。担保となる不動産の評価額が高くても、事業計画の説明が粗いと、追加の資料提出を求められたり、条件面で保守的な提示になったりすることがある。逆に事業計画が優れていても、担保となる資産が乏しい場合は、信用保証や連帯保証、経営者保証といった別の論点で補完が検討されることが一般的とされる。
重要なのは、どちらか一方だけを厚くして持ち込んでも、審査全体としてはかみ合わないことがあるという点だ。第38回で扱った不動産の棚卸しと、第39回で扱った第三者目線での点検は、担保評価の材料を整えると同時に、事業性評価を裏づける資料(保有資産の実態把握ができている経営という印象)としても機能する。
融資相談の前に準備する資料
- 直近数期分の決算書と試算表事業性評価の基礎資料。数値の変動理由を自分の言葉で説明できるようにしておく。
- 事業計画書売上・費用の前提、資金使途、返済原資となるキャッシュフローの見通しを明記する。前提の根拠を示せることが重要である。
- 担保となる不動産の資料登記簿謄本、固定資産税評価証明書、レントロール(賃貸中の場合)、修繕履歴。第38回の棚卸し作業がそのまま使える。
- 資金繰り表月次の入出金見通し。金利変動時の返済額シミュレーションも添えられると、第37回で扱ったストレステストの説明にもなる。
相談時に確認したいこと
金利タイプ(固定・変動)と見直し時期、担保設定の範囲、信用保証の要否、既存借入との一本化の可否。複数の金融機関に相談し、条件を比較することも一般的な進め方とされる。担当者が変わっても説明が一貫するよう、資料は口頭ではなく文書として残しておくと後の交渉がしやすくなる。
立地の説明も事業性評価の一部になる
店舗であれば、なぜその立地を選んだのかという説明も事業性評価の材料になりうる。第02回で扱った商圏分析の考え方を使って、来店客数の根拠を数字で示せると、事業計画の説得力が増す。
まとめ
- 担保評価は処分時の回収可能額、事業性評価は事業が生むキャッシュフローで返済できるかを見る、性格の異なる評価である。
- 担保評価は市場評価より保守的になりやすく、キャップレートの変化にも連動しうる。
- 担保・事業性のどちらか一方だけでは審査全体としてかみ合わないことがある。
- 金利水準や融資制度の詳細は断定できず、常に最新の一次情報と専門家の確認が必要である。
- 不動産の棚卸しと第三者目線での点検は、担保・事業性の両方の説明材料として機能する。
E編はここで一区切りとなる。利回り、キャップレート、DCF、レバレッジ、棚卸し、第三者評価、そして銀行の評価という一連の視点は、いずれも自社物件を数字で語るための共通言語である。次はF編として、不動産テックやデータ活用が出店判断や運営にどこまで使えるようになったかを扱う。